ゲルを用いた精製は、電気泳動による分離後にアガロースゲルから目的のDNA断片を回収するための一般的な手法です。ゲル断片を溶解し特殊なフィルターを通すと、塩、遊離ヌクレオチド、酵素などの不純物から単離されたDNAを回収でき、ダウンストリームアプリケーションに適用可能となります。
アガロースゲルからのDNA回収の基本工程には、ある配列への結合、洗浄、溶出のステップが含まれます。ゲルを可溶化バッファーに加え、「スピンカラム」に入れます。これは遠心分離機を用いて不純物をコレクションチューブへと通過させ、DNA分子を選択的にシリカフィルターへと結合させる手法です。
可溶化バッファーの塩濃度が高いため、DNAはシリカに結合できます。このバッファーはフィルター付近の水和構造を破綻し、強い負電荷をもつフィルターと負電荷のDNAとの間に陽イオンによる塩橋を形成するとされています。残りの不純物はエタノールで洗浄し除去します。
水又は低塩濃度のバッファーをカラムに加えることでその塩橋は破綻し、DNAを溶出つまり単離することができます。これでゲルからDNAの精製が完了しました。
ゲルを用いた精製の第一ステップは、アガロースゲルの作製とDNAサンプルの電気泳動です。電気泳動終了後、目的のDNA断片をUVライトを用いて視覚化し、分子量マーカーを利用して選別します。
ゲルが染色されていない場合は、DNAラダーと比較しおおよその位置を推測します。カミソリの刃でゲルを切り出します。このときDNA量はできるだけ多くアガロースは少なくなるように気をつけます。
エチジウムブロマイド染色したゲルとUVライトを取り扱う際には、手袋と保護メガネを着用してください。ゲルから目的のDNAを切り出したら、安全手順に従いゲルとランニングバッファーを処分します。
単離が完了したら、ゲル片をマイクロチューブに移し、重さを測ります。ゲル100mgが100 µlであると概算し、ゲルの重さの4倍量の可溶化バッファーをゲル片に加えます。その後、ゲル片を約50°Cでインキュベートし、アガロースを完全に溶解させます。
その後、溶解したゲルをスピンカラムに移し、溶液を遠心分離します。全てのDNAと粒子状物質はフィルターに結合します。
次に、その結合したDNAを70%エタノールで洗浄し、遠心分離を行うと、残留不純物がフィルターから除去されます。通過させた液体は処分し、この洗浄ステップを3回繰り返します。残留エタノールを除去するためにフィルターを再度遠心にかけます。その後フィルターを室温で乾燥させます。水又は溶出緩衝液をフィルターに加え、遠心分離を行い、チューブの底に溶出したDNAを回収します。
ここまでシリカスピンカラムを用いたゲルからの精製工程を見てきました。DNAをシリカに結合させ、洗浄と溶出を利用する方法は他にもあります。例えば、グラスミルク」と呼ばれる懸濁液中でDNAとシリカを混合し、ペレット状にした後、洗浄し溶出させる方法です。また、吸引法を使ってシリカフィルターからDNAを回収し、後に溶出させる方法もあります。それぞれの研究室で利用されている方法を確認してください。
アガロースゲルからのDNA回収方法を学んだところで、次はゲルから精製したDNAの利用法を紹介していきます。
クロマチン免疫沈降法を行うにあたってゲルからの精製工程が必要となります。この手法は、ゲノムDNAをまとめる調節タンパク質の単離を目的としたもので、調節因子の塩基配列が特定可能となります。ゲルから精製した単離断片の配列を決定することで、染色体領域のマッピングができます。
サブクローニング、これはある遺伝子を他のベクターに導入する手法であり、これにはゲルからの精製工程も含まれます。例えば、あるベクターの遺伝子配列を切断し、PCRを利用してキメラ配列に組み込みます。その後ゲルから精製し、他のベクターに導入可能となります。
電気泳動で得たDNAバンドの切片を-80 ˚Cで長期間保存した後にゲルから精製し利用することも可能です。
ここまでアガロースゲルからの DNA断片の精製法、様々な結合、洗浄、溶出プロセス、そして最後にこの手法の応用例をいくつか紹介しました。 ご覧いただきありがとうございました。