これからパン酵母として知られる出芽酵母の核酸精製法について見ていきましょう。DNA、RNAは共に核酸です。
このビデオでは、相分離とクロマトグラフィを用いた酵母細胞からの核酸分離についてお話します。
核酸分離にはいろいろな方法がありますが、始めの工程はどれも共通しています。
まず培地からシングルコロニーを取り出しYPD培地に埴菌して、酵母細胞を繁殖させます。
その混合物を30度で一晩、シェーカーまたはローテーターを使ってインキュベートします。
酵母は、対数増殖期半ばに採取するのが理想的です。
対数増殖期の酵母では、波長600ナノメートルで測定した光学濃度、ODが0.5から1になります。
最適な細胞密度に達したら、細胞ペレットを遠心分離で回収し、ライシスバッファーで再懸濁させ細胞を壊します。
酵母から核酸精製する際に最も大変なのは、強固な細胞壁を破壊することです。
この細胞壁は、酵素処理と物理的手法を用いて壊していきます。
細胞壁を壊すと、酵母はスフェロプラストと呼ばれる球状細胞を形成し、通常の方法を用いて細胞溶解することができるようになります。
通常スフェロプラストは、細胞膜を溶解するドデシル硫酸ナトリウム、SDSのような化学洗剤を用いて溶解させます。
ガラスのビーズを細胞に加え、ボルテックスでホモジナイズすることもできます。
あるいは、細胞溶解を速めるためソニケーターで超音波処理し、細胞壁を破壊するのも効果的です。
ここまでの核酸精製工程は、増殖、採取、細胞溶解とみな同じステップを踏んできましたが、この後の過程でいくつかの異なる方法が用いられます。
核酸はカラム吸着や相分離によって精製することができます。
DNA、RNAの分離にはシリカカラム吸着が最適です。
陰イオン交換により核酸だけがカラムに吸着し、その後溶出させることができます。
相分離は、溶液の純度の違いや、タンパク質濃度の違い、あるいは核酸の溶解性の違いを利用した方法です。
クロロホルムを加え、細胞成分をスラリ―状にし、水層と有機層に分けることができます。
タンパク質は有機層に核酸は水層に分かれます。
さらに、有機層にエタノールを加えることでDNAを沈殿させることができます。
酵母の核酸はカラム吸着法により分離できます。
まず、細胞を育て、遠心分離により細胞を回収します。
上清部分を除き、細胞ペレットを酵素含有バッファーに再懸濁、撹拌し細胞壁が分解されるまでインキュベートします。
適切に酵素処理されていると、細胞壁の破壊とスフェロプラストの形成が顕微鏡で確認できます。
その後バッファーを加え、混合物を撹拌します。
上清部分のDNA、微粒子、可溶性タンパクなどのデブリを除去するため、細胞溶解液を遠心分離します。
上清をシリカカラムにかけると、不純物の大半を除け、核酸だけが吸着します。
吸着した核酸から残りの不純物を取り除くため、エタノール又は高塩濃度バッファーで洗っていきます。
そしてDNA、RNAを水、又は低塩濃度バッファー中に溶出させます。
ここではDNA及びRNA分解酵素を含まないバッファー、又は水を用います。
酵母から分離した核酸は、様々な研究に応用できます。
PCR,サザンブロット、制限酵素処理など多くの分子生物学的手法に適用されます。
ここにあるように遺伝子解析するためのマイクロアレイにより遺伝子変化を調べることができます。
ここに過酸化水素により刺激した酵母とそうでない通常の酵母があります。
これらの酵母からmRNAを抽出しマイクロアレイを行います。これにより酸化ストレスで制御される遺伝子群を調べることができます。
ここでは、ロボットシステムを使って野生酵母突然変異株のライブラリーを作製しています。
遺伝子バーコードと呼ばれる固有の遺伝子配列を組み込むことで、同時に4000から6000株もの遺伝子変異を起こした酵母DNAを抽出することができ、マイクロアレイ解析やシークエンンシングにかけられます。
バーコード配列の相対存在量をもとに、その個々の遺伝子変異株の適合性をいくつかの実験条件下で決定することができます。
今回のJoVE酵母の核酸分離編では、酵母を溶解するための準備方法や様々な抽出、分離方法について学びました。ご覧いただきありがとうございました。