出芽酵母は、単細胞真核生物であるにもかかわらず、ヒトのような高等真核生物の細胞周期と似たような細胞プロセスをとるため、非常に有用な生物モデルです。
酵母の細胞サイクルの中でも細胞増殖と細胞分裂は栄養素の濃度に依存します。
酵母は環境要因によって、無性生殖でも有性生殖でも増殖できます。
これから出芽酵母の細胞周期と様々な繁殖様式について見ていきましょう。
ここで細胞周期について簡単に復習してみましょう。
細胞周期はG1、S、G2から成る間期と有糸分裂のM期に分かれます。
有糸分裂は細胞分裂の重要な要素であり、酵母の場合、特有の出芽という無性生殖で非対称分裂をします。
G1期は、細胞周期の「START」地点です。
S期になると芽が現れ、残りの細胞周期で成長し続けます。
そして細胞質分裂により、大きさの異なる娘細胞が生み出されます。
不運にも細胞分裂後、母細胞には出芽痕が残ってしまいます。
ですが、そのおかげで、細胞壁成分キチンを蛍光標識とすることにより酵母の発芽パタンや分裂回数の推定に役立ちます。
新しく作られた細胞は、栄養存在下で、ある程度の条件がそろい“START”と呼ばれるポイントが来るまでG1期に留まります。
いったん「START」ポイントに達すると、次の細胞周期段階に進み分裂を繰り返します。
一方で、このチェックポイント到達前に減数分裂や有性生殖することもできます。
なぜ酵母のような単細胞真核生物が、有性生殖をする必要があるのでしょうか?
知っての通り、有性生殖は生命体の多様性を生み出し、生存を促進します。
有性生殖する酵母は、卵子や精子のように一組のゲノムを持つ一倍体です。
接合型にはMAT aと MATアルファがあり、二倍体酵母のように出芽による無性生殖もできます。
それぞれMAT aはaファクター、MATアルファはα ファクターといフェロモンを分泌します。
相手がこのフェロモンを感知すると、お互い伸長して、シュムー形成が起き、一倍体は形を変えていきます。
この時二つの一倍体は、互いに接合するまで伸長します。
続いて、細胞間と核の融合が起こり、接合体を形成します。
その後その新生二倍体は芽を出し、再び有糸分裂し始めます。
接合体は芽のあるなしに関わらずダンベル型の細胞です。
ではどのように最初の一倍体が誕生するのでしょうか。
答えは簡単、減数分裂です。
染色体複製、続いて減数分裂が起こり、親株細胞の半分の染色体をもつ娘細胞が生まれます。
酵母は厳しい環境下では減数分裂し胞子を形成します。
胞子形成過程では、それぞれの接合体に一倍体胞子が形成され、黄色の円で示してあるように、子嚢(しのう)と呼ばれる強い膜構造に覆われます。
環境が好転すると、子嚢から胞子が放出されます。
その後、MAT a とMATアルファ一倍体細胞となり、再び有性生殖し始めます。
酵母の繁殖について詳しくなったところで、このプロセスの
研究への応用について考えてみましょう。
酵母の繁殖様式を理解することは、多数の変異を持った酵母を作製するのに不可欠です。
このビデオでは、寒天培地へ一倍体MAT aとMATアルファを混合しその後のインキュベーションにより接合し二倍体を形成していくところを見ています。
その複製物を二倍体のみ増殖させるための培地で育てます。
そして、その二倍体を栄養が乏しい培地に広げ胞子形成させます。
その一倍体胞子を顕微操作で分離し、寒天培地に播種します。
一倍体の遺伝子型は、PCRもしくは特別な培地での増殖能で確認します。
さらに、酵母の複製寿命を調べることで、老化研究を行うこともできます。
複製寿命とは、酵母ができる一生涯での出芽回数です。
一つの酵母は死ぬまでに約30回出芽するといわれています。
ここでは、酵母の寿命を解析するため顕微操作を用いて娘細胞を母細胞から分離します。
複製寿命実験で出た数値は、各年齢で各母細胞から生まれた娘細胞の数に対応しています。
タンパク質を濃縮して行う細胞形態の変化も出芽酵母で研究可能です。
ここでは、特定の欠陥を可視化するため酵母を準備しています。
このタイムラプスイメージにより、分裂に失敗し、多数出芽した酵母を見ることがきます。
今回のJoVE出芽酵母の繁殖入門編では酵母細胞周期、無性生殖、有性生殖における複製細胞周期の基本について学んできました。
ご覧いただきありがとうございました。